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[列車の中で]
(なんだ、このアジア人は。おまけに大荷物をつけた自転車まで持って。やっかいな奴だな)
開いた乗降口のステップの上から、客室係のオッサンがそんな目をして僕を見下していた。
大問題を抱えている今、どんな人にでも自分を支えてもらいたい時だけに、オッサンのそんな目と態度にはゲンナリした。ちゃんとクラスノヤルスクに着けるのかどうか、本気で心配になってきた。
結局この禿げたオッサンは僕たちを渋々と列車に上げ入れ、僕を四人部屋のコンパートメントに、そしてRocket Boy ONEは彼の部屋に入れ込んだ(これは有難う)。
暗闇の中、眠っている先客を起さぬように荷物を上のベッドに上げて、そして、ガタゴト眠る。ガタゴト、ガタゴト。
車窓の外を流れてゆく緑を眺めながら朝ごはんのパンを齧っていると、コンパートメントの扉が開き、そこに昨夜のオッサンと、もう一人、痩せぎすで長身の男が立っていた。オッサンのへりくだる態度から見るに、この痩せぎす男がオッサンの上司であるらしい。つまりは総括車掌なのだろうか。
痩せぎす車掌は人差し指を一本立てて、降りてこいと僕に命じた。ついで、車掌室に入れられ、パスポートとビザを提示するよう命じられる。
「こんなんじゃダメだ」
「ダメって、何がダメなんだ。昨夜、この人だって問題なく俺を中に入れてくれたんだ」
そうでしょう、と禿げオッサンを見やると、奴は素知らぬ顔で中空をみつめている。
「ダメはダメだ。ジンギ、ジンギ(金を出せ)」
「ジンギって、ジンギはちゃんとケメロボの駅で出したんだ。そのチケットにも144ルーブルって、ちゃんと書いてるでしょう」
「ケメロボはケメロボだ。ここは、ここだ」
訳わからんこと言うなや、オッサン!
「それにお前、パスポートにあるナウシキの入国日から二ケ月・・・・」
それがどうしたんヤ!こちらは正式なビザを持って旅をしているんだ。
「とにかく200ルーブル出せ。ドルでもいい。出せ。出さないと、パスポートもビザも窓から捨てる。次の駅に着いたら、警察に引き渡す(と、手錠をかける真似)」
こちらがロシア語を話せないのをいいことにしやがって。
「とにかく、10分で決めろ」
痩せぎすは車窓を開け、パスポートとビザを握りしめた左手をその外に出した。その目は冷たく血走り、表情は固く、微塵も動かない。
車窓を、白樺のタイガが流れてゆく。
このオッサンなら、とんでもないことをやりかねないだろう。Rocket Boy ONEを預けている状態だし。
ただでさえたくさんの問題をかかえているというのに、もう懲りごりだ。それに、これがロシアだ。金で解決しないと大問題になりそうな感じだ。もういい、アホらしくなった。アイルランドに着けば、それでいい。
「いいよオッサン。出してやるよ。ドルしかないんだ。ドルならいくらだ?」
ひとのメモ帳で必死に計算をする痩せぎす。35ドルだ。アホな痩せぎすは計算出来てない。(40ドルだよ)。
30ドルにしろ、とメモ帳に書くと、痩せぎすも合意し、商談成立。30ドルを机に叩きつけて部屋を出た。
ウジ虫め。人のことをウジ虫だと思ったのは本当に久しぶりだ。怒りを越え、アホらしくなった。
Siberia
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