-  Siberia -


          
「ケメロボ事件」

[タイガ、駅待合室、深夜0時12分]
 大問題発生。
 朝ごはん食べ、コパトーン塗って、さあ行こうと思い、念の為に後輪の「ふれ」を見ていたら、結構キツかった。 
 で、よく見ると、リムがスポークとの接点で裂けている。剥れようとしている。一ヶ所大きく。一ヶ所小さく。三ヶ所、クラック。
 「こりゃ、無理」と決定。
 すぐにフロントに降り、おばさんと工事の兄さんに自転車を扱っている店を二、三きく。今日は閉まっていると言われたが、待ってられないので、行ってみることにする。
 一軒目。開いていてホッとするが、ロシア製のオンボロのブリキ自転車三台のみ。ホテルに戻り、ホイール持ってバスに乗り、スポーツマガジンへ行くが、同じこと。ホイールどころか、マウンテンバイクすらない。トロリーに乗り、"Moto & Sport"という店へ行くが閉まっている。ホテルに戻り、その近くで自転車に乗っていた少年にきいた店へ行くが自転車などない。そこの店の兄さんがわざわざ連れていってくれたデパートも、ブリキ自転車のみ。そこの人が教えてくれた、体育館付属のスポーツマガジンへバスで行くが、マウンテンバイクなし。きくと、マウンテンバイクを扱っている店が一軒あるが、そこでホイールを注文しても二週間ほどかかるという。
 で、列車でクラスノヤルスクに戻ることにする。
 270キロ先にあるノボシビルスクまで漕ぐ強硬策も考えられたが、そんなことをしたら、途中でとんでもないことになる気がした。ノボシは大きな都市といえども、ホイールがあるかわからないし、そこに列車で行くのは完全に方向・方針違い。それよりも、マウンテンバイクを扱っている店を確認済みのクラスノヤルスクに戻った方がいい。あの店にホイールがあったかどうかは憶えていないけれども、百にひとつ、それがない場合は、イルクーツクまで戻らねばならないかも。あそこには、マビックのホイールまであったんだ。
 「急がば戻れ」とでもいうのか。まるで双六のように、行って戻って。三歩すすんで、二歩さがる。ここでジタバタしても仕方ナイ。のんびり構えよう。
 急いでホテルに戻り、列車のスケジュールをきくと、今日か明後日というから、勿論、今日行くことにする。  
 ホテルに自転車を置いて、ホイールだけを持って出発することも考えられるが、これからどんなことになるか、わかったもんじゃない。相棒を置いてゆくわけにはいかない。急いで荷作りをする。
 出発すると、フレがひどすぎ、タイヤがフレームに当たるぐらい。乗るのは危ないし、どうせ押してゆくのだから、フレなどとる時間はなしに駅へ向かう。
 駅への途上で出逢った夫婦(奥さんが若すぎるのでホンマに夫婦か疑いたくなる)がマロージョナエ(本日4本目)くれたりしながら、駅まで案内しくれる。
 チケットを買う段になって、旦那のイーゴル、
 「前後の荷物を入れ換えたら、ノボシまで行ける。道もいい。これくらいの亀裂なら大丈夫だ。俺はエンジニアだから見てわかる」
 などと親切に助言してくれるが、
 「あなたはエンジニアだが、俺はサイクリストだ」
 と言いとおした。正直、今までこんなホイールの亀裂を見たことがない。これは絶対にヤバイ。
 それにしても、いつの間にこんなことになってたんだろう。昨日あたりから、少しフレが大きくなったかな(、、)と思ってたが。スポークをいじったのはクラスノで少しだけだったから、これはつまり、モンゴルのワダッチとシベリアのジャリ道で完全に金属疲労したということだろう。
 シベリア鉄道の本線とのジャンクションであるタイガ駅へと向かう電車の中で、目の前にRocket Boy ONEを見ていると、(疲れたんだなあ)と思ってしまった。ここまでハードな五千キロだった。ほとんど走りっぱなし。お疲れさまといいたい。多分、シベリアの神様たちがRocket Boy ONEと僕に、一休みしろと言っているんだろう。折角だから、シベリア鉄道の旅を楽しもう。(と、この時点ではそんな呑気なことを考えている)。
 人が群がるここタイガに着き、軽い夕食の後、待合室でマットを敷いて横になっていると、駅の警察官がきて、危ないから起きろと警告される。するとすぐに二人のパミール人が話かけてきた。別に危ない人ではないのだろうが、気になるのでここにくる。人、いっぱい。さすがに眠い。
 明日、クラスノ。
 後輪1セット買ってでもいいから、明日中に直さねば。予定みてたら、やはりイルクーツクなど行ってられない。現段階で、ビザ延長なしでロシア突破ギリギリあるいは無理かも。ビザ延長は必ず出来るだろうが(なぜ無理だかわからない!)、それにしても、やはり一日一日のスケジュールは大事にしないと。Hasten slowly.
 
 現在、目の前にはドラエモンのパジャマを着た女の子。両脇には、自転車を列車から降ろすの手伝ってくれたカップル、ピロシキを買うのを手伝ってくれた親切なおネエさんなど。

 列車の出発時刻は、午前3時15分。

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