-  Ireland -


          

 そろそろ、どこかで左折した方がいい。それにしても約束の9時など、とっくにまわっている。こんな時は迷わず人にきくのがいい。おおッ、交差点におばさんがちょうど立っているゾ。
 「あら!あなたがヤズね!お疲れさま。よく頑張ったわね。そうそう、さっきジェリーがラジオで言ってたわよ、ヤズを見かけたら道を教えてやってくれって。遅れてるらしいじゃないの」
 (そうです。遅れているんです。おばちゃんとゆっくり話をする時間はないんです)
 「それはともかく、道中の噺がたくさんあるでしょう。うちにきて、紅茶でも飲まない?」

            Pedal on, Pedal on, Pedal on...........................

 そこを左折し、道を西にとる。何となく見覚えのある通りだ。はじめてRTEを訪れた時の帰路、ここを通ったのじゃないかな。やっぱりそうだ。このモーターウェイを右折し、緩やかな下りを降りるだけ。ほら、テレビのアンテナが見えた。もう、間違いない。

 懐かしいラジオ局に自転車ごと乗り込むと、あの時、旅行計画書のコピー作成を手伝ってくれた、あの受付のおばさんがこちらに笑いかけていた。
 「よくやったわね、ヤズ」
  

 GRSのオフィスにゆくと、そこにはガルダ(警察)のつなぎを着た長身のお兄さんと、小柄なアジア人が立っていた。アジア人は日本人であり、ジェリーの行きつけの日本料理店のオーナー、ホアシ・ヨーイチさん。お祝いの寿司とお酒とともに番組に共演されるという。つなぎのマイケルはダブリン市警白バイ隊のライダーである。コルムに警察の知合いがいて、今日は特別にギネス工場まで先導してくれるというのだ(!!!)。

 階段を降り、スタジオに向かう。防音クッションに囲まれたスタジオの前をいくつかこえると、ひとつの扉が口を開けており、その中に入ると、防音ガラス越しにジェリーが大きくこちらに手を降っている。あの時の約束どおり、ここで生出演。お互い、この日をどれだけ夢見ていたことか。

 「ああ、ヤズ!何千キロもの漕行を終え、やっとこさ会えたな。とにかく、この豪華な朝食といこう!」
 と、みんなでお酒を開ける。同席のキーラが、
 「ワンカップオゼキと書いてあるけど、そういえば、あなたの名字はオゼキなのよね」
 乾杯、そしてスランチャ!

 「ジェリー、ヤズが日本からはるばると運んできた特別なプレゼントがあなたにあるのよ。ライブオンエアで開けてみましょう」
 袋の中に入っているパンツをつまみ出し、怪訝そうな顔をするジェリー。
 「なんだか訳のわからないプレゼントなんだが、ヤズ、説明してくれないか」
 「これは、日本からここまで漕いできたことの証拠なんです。臭い、生きた証なんです」
 「ちょっとまてよ。ということは、これはお前がここまではいてきた、日本からの使いふるしのパンツということか!?」
 「証拠です」
 「!!!!!!!とにかく、ユニークなプレゼントを有難う!」 
 
 と、寿司の宴会が始まる。

 「今日は、ガルダがヤズのために来ているんだが、これは悪いことをしたからではないんだ。ここからギネス工場まで、オートバイでエスコートということだ。ギネス工場では世界一美味しいギネスが、ヤズのために用意されているんだ」
 そういうジェリーに背を向けてスタジオを出ると、スピーカーごしにジェリーのこんな声が聞こえてきた。
 「長かった、素晴らしいヤズの冒険を祝して、ヤズの大好きなこの曲を皆さんに送りたい」
 流れてきたのは、Christy MooreのThe Voyageだった。

Back Next  Ireland Main